未来の価値 第38話


「僕、君の専任騎士になることにしたから」
「は!?断る!」

ルルーシュは即答した。
怒りの込もった言葉に思わず身震いしたのは仕方がないと思う。それでなくても美しい彼は、怒りを顔に乗せた時にその美しさがより際立つ。さらには王者としての威厳を纏っているため、その姿には思わず平伏したくなるほどの力があった。
・・・とはいえ、言われている側はそんなルルーシュには慣れたもので、常人であれば見惚れて口を閉ざす姿を見ても平然とし、畏怖を感じるほどの言葉も聞き流した。

「即答しないでちゃんと考えてよ」

断るにしても、即答は酷いじゃないか!と、スザクは口を尖らせた。
そんな二人のやり取りに同席・・・正確には扉の前に立ち様子を伺っているジェレミアは脂汗が止まらなかった。そして改めて、スザクはルルーシュにとって特別なのだと思い知らされる。その特別が今回の件で崩れない事を心の底から祈っていた。

「おまえな。誰に何を吹き込まれたか知らないが、俺の専任騎士になどなったら最後、辛い目にしか合わないんだぞ!」

くそ、絶対クロヴィスだ。スザクを懐柔してきたな!
ルルーシュはスザクではなくクロヴィスに怒りを向けていた。
何を言われたか知らないが、スザクは”ルルーシュの騎士になる”と決めているらしく、絶対に引かないという顔をしている。こうなった時のスザクは本当に引かない。
引かないが、こちらも引けない。
普通の騎士や親衛隊とは違い、専任騎士はその一生を主である皇族に捧げる。
その命を、人生を、主のために捧げるのだ。
それは皇帝の騎士ナイトオブラウンズも同じだが、あちらは12人、こちらは1人。そのうえ、ラウンズは皇帝が変われば自動的に解任される。皇帝個人につく騎士と言うよりも、皇帝という地位に、ブリタニアという国に仕える騎士だから、皇帝が国を統べるにはふさわしくないと判断すればその座から引きずり降ろそうとする。だからこそ、過去にナイトオブラウンズによるクーデターも起きたのだ。
幼い頃は、裏切った騎士を馬鹿な奴らだと思い、皇帝を守りきった母を誇りに思ったものだが、今思えば当時の騎士達は皇帝の愚行を止めたかったのだろう。もしあの時皇帝が討たれていれば、今より価値のある未来が描けていたのではないだろうか。
スザクがこんな馬鹿な事を言いださなくて済む未来が。
そんな事を考えながら、スザクを睨みつける。
互いににらみ合い、暫くのあいだ硬直状態が続いた。
そして根負けしたのは、珍しくスザクの方だった。

「・・・あのね、ルルーシュ。ちゃんと考えて」
「それはそのままお前に返してやるよ」
「僕は考えたよ。その上での結論だ」
「どうだか。大体それは何日ぐらい悩んで出した結論なんだ?一昨日会った時はそんな話してなかったよな?一生のことなのに1時間も考えずに決めたんじゃないのか?」

図星だったのだろう。目をそらしたので、俺はやはりそうかと、ふんと鼻を鳴らした。一昨日、ユーフェミアが来たあの日、政庁に戻る時にスザクは一緒だった。だが、それらしい事を仄めかしもしなかった。昨日はサムライの血の対処のため政庁を離れていて話せなかったが、今朝クロヴィスから専任騎士の話をされ、今はスザク。
すでに日が落ちた時間とはいえ、朝と夜、1日に二人から言われれば訝しむのは当たり前。つまりスザクが考えたのは1日にも満たない時間というのはすぐにわかったのだが、まさか1時間も考えていないとは。
一生に関わる事をそんな短時間で決めるな、この馬鹿が。
ジェレミアと共に来たという事は、ここに来る前にクロヴィスに会ったはずだ。
そしてジェレミアを証人とするため同席させたのだろう。
証人がいる以上受けたら最後撤回は不可能となる。
だからこそ、絶対にこの話を受ける訳にはいかない。
スザクが軍属で、しかもKMFの、第7世代の唯一のパイロットと言うだけでも腹立たしく、正直言えば今すぐ軍をやめてナナリーの所へ行かせたい。俺が全てを終えるまで、二人で静かに暮らして欲しい。だがそれが叶わないのなら、少しでもスザクが生き残れるようランスロットを改良し、その上で出来るだけ戦場には出さない事だ。幸いと言うべきか、ブリタニア軍は名誉であれイレブンがKMFに騎乗する事を快く思っていない。口実ならいくらでも作る事が出来る。
それなのに、俺の騎士になどなってしまえば俺の護衛だけではなく、騎士として戦場に立つことになる。暗殺の手もスザクに伸びるだけではなく、下賤の血と呼ばれる者の騎士となったことで嘲笑の目も向けられる。今以上に肩身の狭い思いをする事になる。

「スザク、俺はお前を騎士にはしない。絶対にな」

皇族の騎士になることで、スザクが得る利点は多い。
恐らく、マイナス面よりプラス面の方が多いだろう。
当然、ルルーシュはそれをすべて理解しているが、それらすべてを無視し、否定の言葉を紡いだ。


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